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アカンソドラス属検索

 私にとってアカンソドラスには、どこか「大人の魚」といったイメージがある。というのも、私が中学生のときにドラスを手ほどきしてくれた先輩たちが好んで飼育していた魚こそ、まさしくアカンソドラスだったからだ。それに当時は入荷が少なく、他の小型ドラスよりも高価だったので、私の月1000円のお小遣いでは手が届かなかった。それも相まって、アカンソドラスに対しては高嶺の花のような憧れを抱くようになっていった。だからこそ、初めてアカンソドラスを買ったときには、「ついに、私にもアカンソデビューを果たした」と、どこか大人に仲間入りしたような誇らしい気持ちになったことを覚えている。今となっては、どのドラスも月1000円のお小遣いではとても手が出せない価格にまで高騰してしまった。ゆえに私が抱くアカンソドラスへの印象はもはやアナクロになってしまったのかもしれないが、思い入れがひときわ強い魚であるには変わりない。

 余談はさておいて、このアカンソドラスというのはドラスの仲間でも特に変異に富むグループと言ってもいいだろう。

 写真は同ロットで入荷した別個体を並べたものだが、体色に大きな違いが見られる。もちろんこれは一例に過ぎず、他にも色々な個体同士を比較すると、骨格、模様、棘の様子など、見れば見るほど幅広いバリエーションが浮き彫りになる。これらの違いが飼育環境に起因するものなのか、それぞれの個体の個性なのか、雌雄差なのか、地域変異の範囲内なのか、それとも別種として区別すべき差なのか、完全に五里霧中の状態である。ひとまず細かいことはさておき、アカンソドラスのあれこれについて軽く案内しておきたい。

 アカンソドラスのことを知るには、まず好きになることから。個人的にアカンソドラスの一番の魅了は顔だと思っている。

 顔の輪郭やパーツの位置などがそれぞれ微妙に異なるだけで全体の印象はガラッと変わる。総じてつぶらな瞳と大きな口が特徴であり、可愛らしい顔立ちをしている。

 そもそもアカンソドラスのAcanthoはギリシャ語で「棘」を意味する ákantha(ἄκανθα)に由来する。その名の通り、体のトゲトゲに注目してほしい。これは「稜鱗」と呼ばれる器官で、アジでいう「ぜいご」にあたる。稜鱗の1枚1枚は「}」のような形をしており、尖った先端が肌の表面に突き出すことで、このトゲトゲした独特な見た目を生み出している。稜鱗自体はドラス科共通の大きな特徴だが、アカンソドラスは特に発達しているグループであり、この無骨さこそがたまらない魅力なのだ。そして、その無骨さとは裏腹に、むちっとして皺の寄ったお腹もチャーミングポイントの一つである。

 また、アカンソドラスのユニークな特殊能力として胸鰭の付け根から白色の粘液を分泌することが挙げられる。動画において、粘液がふわふわと漂う様子が観察できるはずだ。この分泌物の役割や機能についてはまだはっきりとわかっていない。しかし、実際に飼育していると網ですくったり手に持ったりした際に分泌することが多いため、防衛や威嚇のための行動なのではないかと考えている。

 それでは軽い紹介はここまでにして、本題のアカンソドラス属3種についての説明に入っていこう。

Acanthodoras Bleeker,1862 検索

 できる限り記載論文やタイプ標本を参照し、科学的な正確性を期して作成したが、内容の一部には私個人の考察も含まれる。その主観的な部分については下記の本文中でわかるように記述したが、さらに詳しく知りたい方はぜひ参照元のリンク先も合わせてご覧いただければと思う。
 それでは、私がこれまでに飼育してきたコレクションを紹介しながら、この複雑で難解なアカンソドラスの奥深い魅力に迫っていきたい。

Acanthodoras cataphractus (Linnaeus, 1758)

 本種は最初、カール・フォン・リンネ著『自然の体系(第10版)』にて Silurus cataphractus Linnaeus, 1758 として記載された。当時はドラス科どころか「科」という分類階級自体が存在しなかったため、ナマズ属(Silurus)にまとめられていたようだ。その記載論文はこちら(https://www.biodiversitylibrary.org/page/25033851#page/317/mode/1up)から閲覧可能であるが、内容を以下にまとめておく。
  • 背鰭に棘条を1本もつ
  • 体側に一列の鱗が並ぶ
  • ひげは6本
  • 尾鰭には切れ込みがない
  • 分布:アメリカ
  • 鰭条式:B 6; D 1/5; P —; V 6; A 9; C 19

 「分布:アメリカ」については、ドラス科が南アメリカ大陸にしか生息しないことから、何かしらの誤記と考えられている。また、鰭条式の臀鰭軟条数が9というのも少なすぎではないかと疑問が残るところだ。しかし、こうした疑問点を脇に置いたとしても、これだけの内容だけではどう頑張っても種を同定することはできない。そこで、他の情報源としてタイプ標本を探すことにした。幸運にも、本種のタイプ標本であるレクトタイプの標本写真はこちら(https://www.researchgate.net/figure/BMNH-18531112193-ex-Museo-Gronovii-flat-dry-mounted-skin-herein-designated-the_fig5_275812893)から確認することができた。ところが、見ての通り生体時の色彩は失われているほか、乾燥のせいか輪郭も変わってしまっている。ここで万事休すかと思い、本種の同定は諦めてしまった。

 それからしばらくして、何の気なしに「各鰭が黒っぽく、胴長なタイプ」のアカンソドラスを元にイラストを描いていたところ、なんと稜鱗(体側のトゲトゲ)の数が29枚と比較的多いことに気が付いた。私が確認した限り、他のアカンソドラスは多くても26枚である。改めて同じタイプの個体の写真をインターネットでかき集めて稜鱗を数えてみたところ、やはりほとんどが29枚で、稀に28枚の個体がいる程度であった。まさかこれほどわかりやすい違いが計数形質に現れるとは考えてもいなかったので、嬉しい誤算である。
 そこでふと先ほどのレクトタイプの標本写真が頭をよぎった。もしやと思い、改めて写真を拡大して稜鱗の数を確認してみると見事ビンゴ、29枚であった。
 以上のことから少し乱暴ではあるが、この「稜鱗が28枚、もしくは29枚」の個体こそが Silurus cataphractus 、つまり Acanthodoras cataphractus であるとの結論に辿り着いた。

 なにも稜鱗の数だけでしか識別できないわけではない。検索図で挙げた特徴以外にも、吻部がやや突き出てること、頭部に白色の模様が細かく入ること、ひげの先端が白くなること、そして腹側の模様が細かであることなど、実にさまざまな違いが見られる。
 我が家で飼育している個体は、割と活発に活動する性格の個体だ。実際に故郷ではゆらゆら泳いでいるようなので(参照:https://www.facebook.com/reel/681220707641040)、遊泳スペースは広く確保してやるといいかもしれない。


Acanthodoras depressus (Steindachner, 1881)

 上見の写真は購入後すぐで胸鰭がキュっとなってしまってますがお気になさらず。本種は最初、Franz Steindachner著『Beiträge zur Kenntniss der Flussfische Südamerika's. II. 』にて Doras (Rhinodoras)  depressus Steindachner, 1881 として記載された。その記載論文はこちら(https://www.biodiversitylibrary.org/page/49837979#page/135/mode/1up)から閲覧可能である。先ほどのリンネの記載とは異なり、こちらでは文章で丁寧に説明されているのだが、そのなかでも最も分かりやすい識別点は「側線に沿って30枚の稜鱗が並ぶ」という部分だろう。本種も稜鱗の数で同定できるようだ。こちら(https://www.biodiversitylibrary.org/page/49837979#page/177/mode/1up)から原記載のスケッチを確認できる。肌の質感といい、全体のバランスといい、クリアでなんとも素敵な図版だ。

 他にも、稜鱗があまり発達していないためアカンソドラスとしては異質ともいえるヌルっと感があり、他種との違いは歴然である。飼育に際しては、餌をやるとせわしなく泳ぎ出す様子を観察が非常に愛らしい。

 赤茶色の色味も好みにぶっ刺さるポイント。顔もグンバツに可愛らしいし、正直なところ目に入れても痛くないレベルで贔屓にしている魚である。 

Acanthodoras polygramma (Kner, 1853)

 本種はこれまで Acanthodoras spinosissimus (Eigenmann & Eigenmann, 1888) として扱われてきた。しかし近年、それ以前に Doras polygramma Kner, 1853 として記載されていたことがわかり、有効名が見直されつつあるようだ。ただし、Kner による記載論文は浮き袋の形態についてしか述べられていないため、結局は Eigenmann & Eigenmann の記載論文を基に確認していくことになる。

 その記載論文はこちら(https://www.biodiversitylibrary.org/page/27505103#page/171/mode/1up)から閲覧することができる。丁寧に形態的な特徴が記されているが、最も分かりやすい箇所は「背部の中央に白色の斑点が列をなす」という部分だろう。本種のホロタイプの標本写真はこちら(https://mczbase.mcz.harvard.edu/guid/MCZ:Ich:7222)から確認することができる。なぜか胴体の部分が大幅カットされて頭部周辺の写真しか閲覧できないが、これだけ見ることができれば、おおよそどのタイプのアカンソドラスか判別可能である。

 以上の手がかりから考えると、ラインが乱れる個体のほか、ラインがほぼ無くなり白色の水玉模様が入る個体も本種に該当すると見て良さそうだ。模様のバリエーションはとにかく豊富で、産地ごとの傾向や特徴については私自身まだ模索している段階である。

 我が家の水槽では活発に泳ぐことは稀で、基本的にシェルターの中に隠れっぱなしになっている。その分どうしても太りやすいので、エサのやりすぎには注意が必要となる。複数匹を飼育する場合、シェルター内でお互いが棘にこすれ合って怪我をする場合があるので、広めのシェルターを用意してあげることをお勧めする。


 以上でアカンソドラス属に分類される既知種3種を一通り紹介した。それでは、改めて各種の写真を見比べてみてほしい。

 こう比較してみると、稜鱗や背中の模様に注目せずとも、地肌の色味自体が上から「小豆色がかった黒」「赤茶色がかった黒」「こげ茶色がかった黒」とそれぞれ異なることがわかる。もちろん、個体差による色味の違いもあるので、違和感を覚えた際には細部まで丁寧に観察してほしい。また、色の違いだけでなく、頭身、体型、体の各パーツの配置や大きさなど、見れば見るほど細かな違いが浮かび上がってくる。そうした小さな違いの積み重ねこそが、それぞれの種が纏う独特の雰囲気を作り出しているのだ。

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 それでは最後に番外編として、少し変わった見た目のアカンソドラスをいくつか紹介しておきたい。もちろん、今回挙げるタイプ以外にも謎のアカンソドラスはまだまだ存在する。未記載種にあたるかどうかまでは判断しかねるが、何しろ記載が古いグループなので、今後新種として整理される可能性は大いにあるはずである。

 まずはショートで、尚且つ横幅のデカいタイプだ。かわいい顔立ちの一方で稜鱗がよく発達しており、ボディーはかなりトゲトゲしている。譲っていただいた個体でプルス川から輸入されたとのことだったが、種としてはおそらく A. polygramma にあたると思われる。独特な雰囲気でこれまた愛くるしい一匹だ。

 こちらも譲り受けた一匹。茶色がかった体色で、体側の棘が白いつぶつぶのように見えるタイプのアカンソドラスである。一昔前にはたまに輸入されていたようだが、紹介した3種のどれにも当てはまらない。全体のバランスが良く、機会があればぜひ買い足したい魅力的な個体だ。

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 ここまで長々と講釈めいたことを述べてきたが、実のところ本当に大切なことは正確に同定することでも、珍しい個体を見つけることでもない。自分好みの超ドストライクなアカンソドラスと出会い、飼育を通してその魅力を感じ取ることである。ただし、単に「この魚が好き」と漠然と感じるのと、「この魚のここが好き、ここもたまらない」と理由をもって愛でるのとでは、天と地ほどの差が生まれる。ぜひ細部にまでこだわってお気に入りのアカンソドラスを探し、その魅力をじっくり味わってほしいと思う。そして、この記事がその一助になれば幸いである。